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ヒマつぶし情報

2021.07.21

映画『いとみち』について ヴィレッジスタッフが語ること

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画像引用 映画『いとみち』公式


※以下、一部ネタバレを含む場合がございます



「なんて素晴らしい映画なんだ」と思った。 



 私は映画が好きだ。特に映画館で観る映画なんて最高だ、映画館ならではの大画面でみる2.35:1の迫力たるや。全方位に設置されたスピーカーから身体を打ち付けるように溢れ出す音響なんてそれこそ芯から痺れそうだ。 


しかし面倒なことに仕事をしないと(世間一般のほとんどがそうだとは思うが)QOLの高い生活を送ることができない、そのうえ休みなんて週1だ。取れても週2だ。その少ない休みすら次の労働に向けての休息や溜まった家事の消化で消える。わざわざ人の多いところに出かけるだなんて考えられない。信じられない。 


 私は映画が好きだ。そう、映画が好きなのだ。アウトドアかインドアで言ったらどう考えてもインドアだ。混じりっけなしの純粋なインドアだ、インドアの申し子だ。そんなインドアな人間が週1の休みを外出に使う訳がない。考えなくともわかる。それに対して「冬はスノボ、夏はサーフィン、家族友人同僚で予定を合わせてそれぞれ隔週でBBQ、TwitterよりもInstagram」みたいなクラスの人気者なら週1の休みどころか仕事終わりに映画館でもなんでも行くだろう。 


しかしそう考えるとパリピの方が映画館で映画を観ているのかもしれない、映画館のラインナップだってほとんどが「車!爆発!銃!怪獣!」というパリピが好きそうなものばかりだ。映画好きがニヤリとする「フェリーニ!マイナー!キューブリック!カルト!」な映画は少数派なのだ。そうなるとインドアの映画好きというアイデンティティが早くも危うくなってくる。いや、アクション映画を下に見ているわけではない。むしろ好きだ。好きなのだが、休みに私を外に連れ出すほどの熱量はない。自宅で晩酌のおともくらいが心地よいのだ。それは付き合いたての恋人というよりも長年連れ添ったパートナーくらいの安心感なのだ。というかこうやって書いていて思ったのだが私は映画好きというより単なる出不精の面倒くさいサブカルオタクなだけなのかもしれない。というかそうだ、薄々はわかっていた。 


 私は映画が好きだ。そして本も好きだ。だからこんな変な本屋さんで身を粉にして働いている。本も音楽も映画もある、好きなものが大体揃ってる。こんな文章を書く時間なんかもくれる。費用も会社持ちで全国転勤できる、店舗さえあれば北は北海道から南は沖縄まで日本各地を飛んで回れる。同じような環境でもっとお賃金が高いところからお声掛けされたら悩んだ末に寝返るくらいには大好きだ。

 

しかしそんな都合の良いお声掛けなどあるはずもなく、東北の店舗へ移動することになった。そして私は東北に関するものを色々と調べた。様々な小説や文献・音楽や芸・能・映画や映像。青森だけでさえ山ほど出た。その中でも一際目を引く表紙があった。それが『いとみち』だ。表紙絵は『ディエンビエンフー』などの作品でヴィレッジスタッフとしてなじみ深い西島大介、そして物語の作者は『陽だまりの彼女』の越谷オサムときた。こんなにもヴィレッジと親和性が高く面白いのが確定している本、仕入れないわけがない。調べてみるとなにやら映画化が決まっているらしい。 



オール青森ロケ、 出演陣のほとんどが青森出身 



 調べれば調べるほど興味を惹かれる。横浜聡子監督も青森の出身である。この『いとみち』という作品のほとんどが青森で構成されている。物語も言葉も人も土地も。ここまでやられたら青森は津軽の店舗として何かしないわけにはいかない。すぐさま上司にも共有した。私の熱量が伝わらなかったのか薄い反応だった。公開が近くなってからもう一度「やっぱり『いとみち』となにかできないですかね」と問いかける。上司は不敵な笑みで「コラボグッズやるよ」と。味な真似を。書いておいてなんだが上司が読んでいないことを祈る。ごめんなさい。先に謝っておこう。よし。 


そしてあれよあれよという間にコラボグッズは入荷し、6/18には映画も先行公開された。お店には鑑賞後であろうお客様方と飛ぶように売れる『いとみち』グッズ。それらを横目に私は耐え忍んだ。原作は読まず、公式サイトも開かず、Twitterも作品関連は薄目でスクロールし、鑑賞後の感想なんかは聞かないように逃げ回った。映画は前情報なしで観るのが私のポリシーだからだ。好きな映画は記憶を消して何度でも観たい派だ。面倒な性格だ。そしてようやく、待ちに待った休みが訪れる。ようやくだ。 


 私は映画が好きだ。自分の暮らす土地が舞台で、最早聞きなれた訛りで、自分の働くお店でコラボグッズまで展開される。そんな映画を観ないでいられるわけがない。私は映画が大好きだ。



この映画は現代のリアルだ。地方の現状だ。 



 主人公のいとは現代の10代としては訛りが強く、教科書の音読などをすると先生やクラスメイトにからかわれる。恥ずかしさからか消極的な性格をしており、いじめられてはいないが遊びに行くような友達もいない。父親である耕一は思春期の娘とコミュニケーションがうまく取れずに衝突してしまう、しかしそれは問題にすべきような衝突などではなく世間一般の世にあふれた反抗期のそれだ。 


永遠の22歳として津軽メイド珈琲で働く幸子はシングルマザーとして22歳の時に産んだ10歳にもなる娘と暮らしている。地方では仕事も少なく、子供がいるとなかなか雇ってもらえないという諦めにも似た愚痴をこぼす。同じく津軽メイド珈琲で同僚として働く智美はエースとして働きながら漫画家を目指しており流暢な標準語を使う。ただ若干裏表が激しく、おどおどしているいとに対してきつい口調であたることも。店長の工藤は東京で働いていたが訳あって地元に戻り、津軽メイド珈琲の店長として収まっている。 



 そんな津軽メイド珈琲に酒に飲まれた男がひとり。その男の横を通り過ぎたいとは突然悲鳴をあげ転んでしまう。智美が「触っただろう」と問いただすとその男は「どこに証拠がある」「男に媚びを売って」と怒鳴り散らして大立ち回り、すかさず店長の工藤がスタッフやお客様との間に入り冷静になだめ、説明し、それでも通じない相手には毅然とした態度で「いってらっしゃいませ、ご主人様」と笑顔で退店を促す。翌日、常連客数人が「イトテンキョー(いとさんのプライベートに立ち入ることなく転ばないように見守りかつ痴漢の接近は断固阻止する紳士協定)」を立ち上げる。これに対して智美は「『守ります』ってさ、結局女をバカにしてんじゃん」と一蹴。 



 コミュニティ内での格差、シングルマザーにおける雇用の不利、性被害や女性蔑視。上記の内容だけでも物語として破綻がなく現代社会の抱える問題が盛り込まれている。気付こうとしなければ気付かないだろう。それもそうだ。こんなにも自然であたりまえなのは日常のどこにだってあるありふれた光景だからだ。越谷オサムはそれをやってのけた。現実をここまで綺麗に物語へと落とし込んだ。 



「おらんどみんな不確かだ、生きるってそういうことだべ」 



 「なんて素晴らしい映画なんだ」と思った。 


こんなにも素晴らしい物語で、こんなにも現代社会を的確に表現している。


むしろだからこそ感情移入しやすく、身近なものに感じるのかもしれない。 


この物語は青春であり社会風刺だった。この物語は一人の少女の葛藤と成長、それを取り巻く周囲の人間模様を表す人間賛歌だった。この物語は地方の未来を映すものであり、青森の歴史を学ぶものでもあった。一粒で何度でも美味しい。 


 このままでは物語をすべて書き起こし、考察し、登場人物全て書き連ねてしまいかねない。いや、実際書けるだけ名言がある。ひとりひとりがとても刺さる言葉を使う。しかしそこまで書くならそういうお仕事の人になる。なのでいったんここまでにしておこう。ネタバレ嫌いな私がネタバレを書くのもあれなので。 


 ただこれだけは伝えたい。主演の駒井連が1年かけて練習した津軽三味線の成果はとても素晴らしいものだった。劇中で見られるそれはとても力強く、鳥肌が立つほど格好良かった。特に後半の演奏は瞬きを忘れてしまうくらいに綺麗で、演奏も映画も終わってほしくないと後になって感じた。鑑賞時は見ていることしかできなかった。この感覚は是非みなさんにも味わってほしい。できれば映画館で。 


 やはり私は映画が好きだ 



「人が歩げば道ができ、道を振り返れば歴史という景色が見えるど言う。わあの歴史はまんだ、どごさも見当たらね」 


 


動画引用 映画『いとみち』公式

サブカルチャーが大好き。

食べることも飲むことも好き。

いつもなにかについてよく語っている。

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