ヒマつぶし情報
2019.05.21
異端の漫画家・沖田×華先生がものすごくフレンドリーにいろいろ話してくれました。
このインタビューは2018年11月25日発行vvマガジンvol53に掲載された記事の転載です
NHKでドラマ化もされ話題となった、女性看護師が主人公で“生命の誕生”をテーマにした漫画『透明なゆりかご』を描く沖田×華先生。
彼女のさらなる才能が、現在『週刊ビッグコミックスピリッツ』にてシリーズ連載中の、“終末期病棟”を舞台とした『お別れホスピタル』にて炸裂している。
そんな、“生と死”について繊細に描く沖田先生はどんな人なのか…? 直撃してまいりましたー!

──まず、先生のプロフィールをお聞きしたいのですが。
「富山県出身なんですが、近隣の金沢市にもヴィレヴァンがあって。昔はしょっちゅう行ってましたね、立ち読みしに(笑)」
──はあ! ありがとうございます!
「コミックビーム系の漫画がすごく好きだったので、カネコアツシさんの作品とかを集めるようになって、読み物を中心に何かを見つけられる場所として重宝していました。
もちろん、気に入った本やCDがあれば買っていましたよ。
そうそう、ヴィレヴァンで買ったジャズ系のCDにすごくハマッていた時期もあって。
何てアーティストだったかな…なんとかマユミ…、う~ん、忘れちゃいました(笑)。
当時の金沢店は何でも図書券で買えるとか、面白い店だな~と思っていました(笑)」
──(いきなりのヴィレヴァンにまつわるエピソードに、ほっこりしつつ)いや、先生のチャーミングな笑顔に緊張がほぐれました。
「え!? 私なんかに緊張してたんですか?」
──そりゃ、そうですよ。昨夜も作品を読み返して、何回泣いたか。それを描いたご本人が目の前にいるわけですから。
「(ちょっと照れながら)ああ…ありがとうございます」
──さて、先生はドラマ化もされた『透明なゆりかご』で講談社漫画賞を受賞されたわけですが、その時のお気持ちは?
「いや~、どっきりかと思ってました(笑)」
──いえいえ、当然の受賞だと思います。
私はあのような漫画を待っていました(熱弁)!
そして、さらに勝るとも劣らない力作『お別れホスピタル』をシリーズ連載中なわけですが…
「私、昔、看護師をやっていたんですね。
で、“ゴミ捨て場”と呼ばれる終末期病棟の話を当時の同僚に聞いてみると、すごいドラマがいっぱいあって。
これは漫画にしないといけないと思い、描き始めたんです。
『透明なゆりかご』の沖田は名前の通り、私自身がモデル
ですが、『お別れホスピタル』の辺見は誰がモデルというわけではないんです」
──辺見さん、かわいいですよね。
「沖田はかわいくないですかね(笑)?」
──あ、いやいや、沖田さんもかわいいです!(焦って)…沖田さんが漫画を描かれるきっかけは何だったのでしょう?
「看護師って、キャバクラなどで副業をしている人が結構いるんですよ。
で、私は看護師を辞めた後、風俗で働いていたんですね。
そこの待機所で、その辺にあったダンボールにお客さんのことを漫画にして描いたのがきっかけですね」
──そ、そりゃまた、すごいきっかけですね(笑)!
「同僚の風俗譲たちもゲラゲラ笑うわけですよ。それで味をしめたと言うか(笑)」
──リアリティー溢れる先生の作品の魅力は、そこが原点なんですね(笑)。
「そうかもしれないです(笑)。いや、映画などでも半分事実に基づいたような作品が好きなんですよ。
『ゴッドファーザー』とか『仁義なき戦い』とか」
──また、アグレッシブな路線きますね~(笑)。
「私、ゲッツ板谷さん(※コラムニスト)と仲がいいんですが、彼がしきりに、私がまだ観たことなかった『ロッキー』を勧めてきた時期があったんですよ」
──アハハ! また、今更。
「観たんですけど、まったく入りこめなくて。
エイドリアンみたいな女性に、なんでロッキーはあんなにゾッコンなのかと(笑)」
──ギャハハ! そこですか。
「外国人男性の好みって、よくわからないですよね」
──いや、日本人男性から観ても、あのキャスティングはよくわからないですよ(笑)。
話は代わりますが、沖田さんは、趣味はありますか?
「う~ん、趣味と言えるのかわからないですが、サウナに行くくらいかなあ…」
──なるほど。サウナ、最近はブーム化してますよね。
やりたいことがなかったら、とりあえずヴィレヴァンに行くですかね(笑)
…さて、話を戻しまして、漫画家としてのデビューはどういった経緯だったのでしょう?
「今の彼氏は東京に住んでいる漫画家で、ある縁があって知り合ったんですね。
でも、その時は前の彼氏と名古屋で同棲していまして。
で、東京に行って漫画家になったほうが面白いな~と思って、どう別れ話をしようかと。
その元カレはメンタルが弱くて、ショックなことがあると食欲が激減するので、コ●イチの大盛りカレーを腹いっぱい食べさせてから別れ話をしました(笑)」
──アハハ!『お別れコ●イチカレー』ですな。
「それから東京に行って、先ほど話した風俗で見たお客さんをモデルにした4コマ漫画でデビューしたんです」
──なるほど。そういった意味では『お別れホスピタル』は“看護師から見た患者”という客観的な視点で描いているという意味では、近いですかね?
「ああ、そうかもしれません。
しかも、元同僚からの話を元に描いているので、さらに客観的と言うか。
新興宗教にハマッた患者【カルテ2 清井聡助さん】の回なんかは『なるほど~、そういう人もいるんだ』と、思いながら描きました」
──そういった“大人になってから直面するかもしれないリアル感”も、この漫画の魅力だと思います。
さて最後に、ヴィレヴァンの主なお客さんである10~20代の若者たちへメッセージを!
「う~ん、やりたいことがなかったら、とりあえずヴィレヴァンに行くですかね(笑)。
最初に話したとおり、私もいろんな本に出会って学んだので。
特に今の若い女の子は、あまり夢がない人が多いのかなと感じていまして。
ヴィレヴァンじゃなくても、どこかに発見はあるはずです。
かと言って、個人的にはバックパッカーになっての“自分探しの旅”はあまりお勧めしないかなあ。
別にインドなどに行ったからといって、何かが変わるわけではないと思うので(笑)」
想像していた以上に、ざっくばらんで、あっけらかん。そして繊細なお人柄でした。
そんな沖田先生のお話は、ご自身の作品同様、裏表も嘘偽りもない真摯な言葉ばかりだと感じていただけたはず。
未読の読者の皆さんは、まず先生の作品を手に取ってみてください。
いろんな意味で泣けます!!

(取材・文/山崎光尚 撮影/宮城夏子)

1979年生まれ。『毎日やらかしてます。アスペルガーで、漫画家で』など、自身が抱える発達障害を題材とした作品もあり、『透明なゆりかご』で大ブレイク。
『週刊ビッグコミックスピリッツ』にて、『お別れホスピタル』をシリーズ連載中。