ヒマつぶし情報
2019.01.30
【連載コラム】ヴィレッジヴァンガード百合部への道【第9回】
大人でも子供でもない時期の彼女たちの純粋さを、誰が間違いだといえるだろうか。
今回取り上げさせていただくのは、百合史上名作といわれている魚喃キリコ先生の「blue」です。
舞台は田舎の高校。三年生でクラスメイトの遠藤雅美と霧島カヤ子の二人は次第に惹かれあっていき、キスをする仲になる。
付き合うという言葉で結び付くわけでもなく、ただ好きだから一緒にいる二人の間に流れる空気や距離感がたまらなく良い。
互いを「遠藤」「霧島」と呼び合うが、カヤ子のモノローグ中で遠藤は「まさみちゃん」と呼ばれる。カヤ子の中にある遠藤への気持ちが大きいのだろうと推測されるところだ。
高校三年生という大人でも子供でもない時期の彼女たちにとって、恋愛はどれほどに大切なことなのだろうか。
他校との合コンに誘ってくる同級生を見るカヤ子の目は、どこか冷ややかだ。過去に男性との関係があったことを隠している遠藤にもやもやした気持ちを抱くカヤ子は、自分も彼女に近づくために、合コンで出会った知らない男の子と関係を持ってしまう。
遠藤に憧れて、男に抱かれることを選ぶカヤ子の思いはどこまでも純粋なのだ。
後半、遠藤がカヤ子に髪を切ってもらうのだが、そのシーンがとても美しい。
女の子が髪を切ることを任せられるのは信頼のおける人間だけだろう。遠藤にとっても、カヤ子はそういう信頼のおける存在なのだ。
見開きのページ、大きく3コマで描かれる、床に毛束が散らばっていくシーンは、トーンをあまり使わず背景の書き込みもより少ないため、魚喃キリコ先生独特のモノクロの絵柄がより映えて世界から2人だけが切り取られたように感じる。
彼女たちにとってあの瞬間は、きっと2人だけの世界だったに違いない。
少し話が脱線してしまうが、私は百合漫画において女の子が女の子に何かしてあげるシーンがとても好きだし、重要なシーンだと思う。女の子たちの物理的な距離が近くなり、信頼しあう関係であることが良く分かるからだ。
例えばメイクをしてあげる、タイを直してあげる、風邪を引いたときにご飯を食べさせてあげるなど、ある程度信用している人にしか触らせたくないような場所に触れてくるあの瞬間が、とてもエモいと思うのだ。
彼女たちは学校生活という、永遠ではない期限のある時間を過ごしている。
ずっと今のまんまで
たった今の このときの まんまでいいのにね
という遠藤のセリフがこの物語のすべてを包括しているのだと思う。
彼女たちの間に流れる青くて透明な空気感を読んでほしい。
『blue』
著者 魚喃キリコ
記事作成
ヴィレッジヴァンガード
ららぽーと立川立飛店店長
兼百合部部長 大岩
記事元
こちらの記事は、ヴィレッジヴァンガード公式フリーペーパーVVMagazine vol.53で読む事が出来ます。