ヒマつぶし情報
2018.09.05
祈り、故郷、過ぎ去った少年期…拠りどころを求める人への本ベスト3選!!
アメリカの作家ジョン・アーヴィングの長編小説。低い身長と異星人のような声を持つオウエン・ミーニーの一生を描いた物語。序盤から描かれるさまざまなエピソードは、綿密に張られた伏線として機能し、終盤になるにつれ複雑に絡み合い、徐々に濃密な世界が織り上げられていく。僕は実在の場所や人物に対するのと同じように、ニューハンプシャー州グレイヴズエンドの街を目の前に思い浮かべることができるし、オウエンが人生をかけてなした行いを、今も忘れられないでいる。
『オウエンのために祈りを』
ジョン・アーヴィング 著/新潮社
京都の街を背景に、少年の日常を通して思春期のゆらめきときらめきを描いたタナカカツキの初期作品。読み進めるうちに作品に共鳴し、自身の少年時代の記憶が呼び覚まされていく。友人と近所の神社のお祭りに行ったときのこと、夏の夜空に打ち上がる花火、好きだった女の子のこと。そういった物語とは直接関係のない記憶までもが浮かんでは本の中の絵と混ざり合い、本を読むのと同時に自身の記憶を読んでいるような、そんな不思議な気持ちにさせられる。
『逆光の頃』
タナカカツキ 著/太田出版
幼い頃、夜に近所の山から新幹線を眺めるのが好きだった。
暗闇に新幹線の窓の明かりだけが浮かび、銀河鉄道のように見えたからだ。数年前の夏、姉とまたその山に登った。午後10時10分。時刻表通りにやってきた新幹線は、もう僕らの目には空を走る列車には見えなくて、駅に数分停車した後、また次の街へとゆっくり動き出していった。姉は「見えないね」と笑い、僕も「そうだね」と笑った。新幹線は速度を上げやがて見えなくなり、鈴虫が鳴き、時や季節が流れていくのを感じた。
『銀河鉄道の夜』
宮沢賢治 著/角川春樹事務所
ムカイグチさん(32)北海道在住/new style札幌発寒店店長
北海道は札幌暮らしの独身貴族。その名もムカイグチさん。散歩と読書とカプレーゼ、それとあまり弾けないピアノを弾くことが好き。
※プロフィールは雑誌掲載当時のものです。
『東京グラフィティ』#140(2016年10月号)掲載